「自殺」でヒットした末井昭さん、もう一つの顔

「自殺」というセンセーショナルなタイトルで講談社エッセイ賞を受賞した末井昭さん。「自殺」というタイトルだけではわからない、末井昭さんのもう一つの顔を追ってみた。

末井さんが「美子ちゃん」と呼ぶ人。末井さんの妻である神藏美子(かみくらよしこ)さんのことだ。人前でも遠慮なく、愛情いっぱいに美子ちゃんと呼ぶ。一方の美子さんは、末井さんのことを「スエイ」と呼ぶ。末井さんのブログ「絶対毎日スエイ日記」の「スエイ」から取ったのだろうか。ツイッターではお互いの活動を頻繁に呟くほど仲睦まじい。そんな二人の出会いは、現在からは想像もつかないほど陰鬱としたものであった。

二人の原点は「三角関係」だ。スエイさんと出会う前、人妻だった美子さんはH氏と不倫した。H氏は結婚式の一週間前に婚約を破棄し、美子さんと結婚。しかし数年後、美子さんはスエイさんと出会って恋に落ちた。美子さんはH氏と離婚してスエイさんと同居。それでもなおH氏の元に通いつづけ、ある日突然「二人とも好きだ」とスエイさんに告白し、スエイさんを困惑させる。まさに昼ドラに出てきそうな屈折した関係性だ。

そんな折、スエイさんは美子さんのお父さんに結婚のご挨拶に行った。頑固オヤジのお父さんに戦々恐々としながらも、酒を酌み交わすうちに意気投合した。二人で立川競輪場に行き、ボロボロに負けて、用賀の居酒屋で語り合ったこともある。スエイさんいわく、「友達みたいに付き合わせてもらっていた」。

そんなお父さんも、7年前に亡くなった。美子さんは泣きながら「パパ、パパ」と言って足をさすっていたそうだ。スエイさんも泣いた。今年出版された美子さんの写真集『たまきはる』の最後はこう締めくくられている。

「パパ、愛してる」

心から愛する父の死によって、一冊の写真集が完成した。

スエイさんと美子さんの二人に共通するのは、「自分をさらけ出す」という表現手法だ。エッセイ『自殺』を書いたスエイさんは

「僕は、自分をさらけ出すしか方法がない。」

と語る。そして美子さんも、『たまきはる』の表紙に飾ったのはスエイさんの何気ない横顔。中をめくるとスエイさんのヌード写真や、お父さんが安らかに眠る姿など、普通は見せたくないプライベートな日常が、驚くくらい赤裸々に収められている。美子さんはツイッターでこう呟いた。

「十二年間かかって、『たまきはる』を、作ってきました。ほとんど、穴から出るような感じです。『たまきはる』と共に。」

自分を世間にさらけ出す様々な葛藤と戦った十二年間なのだろう。

しかしなぜそこまでさらけ出すのか。それを探るうちに、『たまきはる』によく似ている作品を見つけた。美子さんがスエイさんに初めて贈ったプレゼント、イギリスの写真家リチャード・ビリンガムの『レイの笑顔』だ。アルコール依存症の父などを収めた私写真集。『たまきはる』も『レイの笑顔』も、えげつないほどのリアリティに溢れている。でも見ているとなぜか心が温まるし、被写体への愛を感じるのだ。スエイさんは『自殺』の中でこう語っている。

「自分を肯定できると、相手のことも肯定できるようになります。」

さらけ出すことは、自己嫌悪を抜け出し、相手を肯定する手段なのだと思った。

そして今年4月7日、夫婦揃って本を出版したことで、都内の3書店に突撃売り込みをかけた。スエイさんの『自殺』、そして美子さんの『たまきはる』を同時に売ってしまおうという作戦だ。夫婦仲良く隣に座って、本や色紙にサインをし、栞に絵を描いて書店に提供した。

「栞は、子供のころ、保育園のお絵描きの時間にいつも、描いていたチューリップ。」

楽しそうに語る美子さん。帯に書かれた「神さまがいるとしたら、ここ。」という言葉は、今の心の穏やかさを象徴するかのような言葉だ。

スエイさんは白夜書房の編集局長を辞めるとき、こう言った。

「まず美子ちゃんを幸せにします。それから、二番目は面白いことをやりたいと思ってます。」

その言葉どおり、美子さんのことが大好きで、幸せにしたい気持ちがじわりと伝わってくる。そして、そんなスエイさんの笑顔がたくさん詰まった美子さんの写真集は、美子さんにとっての宝物のようだった。

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